思い出した話

日が昇るよりだいぶ早く目覚まし時計は鳴る。半纏を着込んでベッドから降り、こたつの電源を入れる。隣の部屋の妹や階下の両親を起こさないように、音をたてずに階段を降りる。
細心の注意を払って戸を閉め、台所でお湯を沸かす。大きな急須いっぱいにほうじ茶をたてる。それと湯飲みを持って二階に戻る。
こたつ机の上に赤いカセットデッキ、何冊もの参考書、ペンとノート、温かくたっぷりのほうじ茶。


思い出す受験勉強の記憶はこれだけ。お茶がおいしかったことと、極小の音量で流れる音楽がきれいに鼓膜に染みたこと、朝がはじまるのは静かだったこと。