言葉の密室

空調の効いた建物から出ると、空気は重く、湿度が高く、さっきまでサラサラとしていた腕や首筋が、一瞬でベタベタしてくる。
夏だ。
夏になると思い出す景色もない。思い出す記憶もない。それだけどなにか、真っ黒な塊、イメージの中のブラックホールみたいな、大きくないのにとてつもない質量を感じる塊、綿菓子みたいにつかんだら融けていくようで、怖いのになくなって欲しくない感情、だけが沸き上がる。
息苦しいのは、空気中の水分が多いから?
季節の変化に、いつだって驚く。梅雨ってこんなだっけ、と思う。たぶん春にも同じことを感じていたし、梅雨があけても、秋、冬になっても、また思う。
季節の変化?地球の公転と、軸の傾き。
たぶん、あと30歩も進めば忘れてしまう。日常に紛れて、たくさんのことが流れていく。ひとつひとつ、ビー玉みたいに、きっときれいに閉じ込めていけたらいいのに。
そしたらそれに、光を当てて、世界を通して見てあげる。私の感情、言葉にされない感情。きれいだよって言ってあげたい。